皆さんには口癖がありますか?
私の口癖は「さっさとやってしまわないと」でした。何もしないで、ぼーっとしていると「ぼーっとしている暇があるなら、さっさとやってしまわないと」、と自分で自分に声をかけていました。母は「ぐずぐずしているのは嫌いだから」とか「さっさとやってしまいなさい」、とよく私に言ったものです。
心理学を勉強するようになり、こうした母親がよく口にするメッセージが私たちの考え方や行動パターンに影響を与えることを知りました。そのメッセージが自分にとって、心地よいものでなければ、自分に合うようにそのメッセージを書き換える方法があることも知りました。
ある女子学生が相談に来ました。小テストで満点をとれないと、自分を責めてしまう。自分を責めた後は、何もしたくない気持ちになるので、何とかしたいという相談でした。
「満点をとれなくて、自分を責めてしまう気持ちと同じような気持ちを、小さい頃に味わったことがありますか?」と尋ね、小さい頃の場面を思い出してもらいました。
小学校3年生の時、テストの点数について、お母さんが怒っている場面が思い出されました。
「その時、お母さんに何て言いたかった?」、と私は彼女に尋ねました。すると、「お母さんは間違った数だけしか数えない」と返ってきました。さらに、「その時、お母さんに何て言ってほしかった?」と質問しました。「よくやったね、少ししか間違えなかったね」と優しく言ってほしかったと言いました。
面接をとおして、お母さんの見方で自分のことを評価していることに気づきました。そうした基準は8歳の子には必要なものでした。今、彼女は20代で、自分のことは自分で決められる年齢です。小テストで1つや2つ間違えても、成績に大きく関係しないことを知っています。彼女は「自分のことは自分のものさしで評価できます」と宣言し、小テストの点数で自分のことを責めるのを止めました。(プライシー保護のため、面接の主要部分だけを取り扱っています。)
小さい頃の洋服が大きくなると着られなくなるように、かつての考え方や行動パターンがしっくりこなくなることがあります。このしっくりこない感じが親から自立していく一歩なのか、と思います。
皆さんは、小さくなった洋服を着続けますか? それとも、自分に合った洋服を選びたいですか?
©2019 生田 かおる
本事例に関して、さらに詳しくご覧になりたい方は「現代のエスプリ」第483号 pp187~194 「海外留学生の自立支援」をご覧ください。