●オープンダイアローグとは?
1980年代からフィンランドのケロプダス病院を中心に実践されている治療法で、急性期の統合失調症の治療に実績をあげています。治療対象はひきこもり、うつ等にも広がっています。
●特徴
「みんなで生きていく関係をつくること」(野口、2018)がオープンダイアローグの特徴です。オープンダイアローグには、本人だけでなく、本人に関わりがある家族、友人等ネットワークメンバーが一同に会します。何か結論を出すことが目的ではありません。参加した人たちは自分の思いや感想を自由に述べることができ、全ての声が受け入れられます。そこに集まった人たちの思いや感想を表現していく「対話的関係」の中から、苦悩を表す言葉がみつかり、そうしたやり取りをとおして、いまだ語られていない経験に言葉が与えられ、情動が共有されます。情動が共有された時に、自然と問題は解決しています。
●太郎君と弟の次郎、お母さんがオープンダイアローグを受けてみたら
太郎君のお母さんが「太郎がいうことをきかない」という問題で相談にみえ、オープンダイアローグを行いました。
簡単な逐語例
(カはカウンセラー、太は太郎、次は次郎の略)
カ:今日はどんな風に時間を使いたいですか?
母:太郎がいうことをきかないので、そのことを。
カ:いうことをきかない・・・。最近の例を挙げてお話ししてくださいますか?
母:おもちゃを片付けなさい、と言ってもいうことをきかずに、寝っ転がっているんです。
カ:もう少し何が起こったのか教えていただけますか?
母:弟の次郎が、太郎が大事にしているトランスフォーマーの手の部分を壊してしまったんです。わざと壊したわけではな
いので、「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」って言ったんです。そうしたら、おもちゃ箱をひっくり返して床にゴロ
ンとなってしまいました。「片づけなさい」と言っても、太郎はいうことをききません。
カ:太郎君は、今、お母さんのお話しを聞いて、どんな気持ちになっている?
太:なんで僕ばっかり怒るの。壊したのは次郎なのに。
カ:次郎君は、お兄ちゃんの大事なトランスフォーマーを壊してしまってどう思う?
次:どうしよう、と思った。怒られると思ったのに、怒られなかった。
カ:では、ここで、チームが感じていることを聞いてみましょう。(と言い、リフレクションが始まります。)
*リフレクションとは相手が言ったことについて感じたことを伝えることです。相手が言ったことを基に話します。相手が言ったことを
否定、批判はしません。
●オープンダイアローグのもう一つの特徴は、リフレクティング・チームが家族や友人等のやり取りを観察
し、感じたこと、疑問点を表現することです。
主カウンセラーと家族との面接を、リフレクティング・チームが観察し、感じたことを述べる → チームの感じたことを聞き、また、主カウンセラーと家族との面接を行う → リフレクティング・チームが観察し、感じたことを述べる を繰り返していきます。
以下の構図です。
リフレクション・スタート
カ1:私も上の子に同じことを言っています。
カ2:当たり前のように「お兄ちゃんなんだから」っていうのは何でなのかな、と。
カ3:太郎の立場だったら悔しいな。
カ4:太郎は弟のことを怒ってほしい、と思っていた、と思う。
カ:今のリフレクションを聞いていて、いかがですか?
母:何も考えずに「お兄ちゃんなんだから」って言っていたなって。
という具合に展開します。
お母さんは、チームのリフレクションを聞くことで「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」って言ったことで、太郎がどんな気持ちになったかを考えるようになりました。
●ビデオでオープンダイアローグ
~グリーフを抱える女性とその母親とのオープンダイアローグ~
さらに、グリーフを抱える女性の架空事例を用いたオープンダイアローグの実際をご覧ください。
本ビデオは、2019年3月30日、31日にNPO東葛生と死を考える会「挑戦するグリーフケア・ワークショップ」でのライブ・デモンストレーションの冒頭とリフレクションの一部の録画です。
●事例の概要
クライエント:30代女性。3年前に夫が膵臓癌で急逝。2年間の結婚生活を送っていました。夫とは離婚手続きをとり、
現在、実家で暮らしています。実家には70代の母親、80代の父親、兄夫婦が同居。
主訴:夫の死に関して、夫の実家から責任を問われ、許してもらえないことに苦しんでおり、新しい生活が始められませ
ん。「墓参りにも来ないでくれ」と夫の実家からは言われています。
ビデオは2回目の面接で、実母が同席しオープンダイアローグを行うという設定です。
(2020年1月5日)
©2020 生田かおる
(2020年1月14日公開)